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「短い人生は時間の浪費によっていっそう短くなる。 」(サミュエル・ジョンソン)
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 まるで凍りついたかのように張り詰めた空気を吸い込む。
暖房費節約のため、下校時間にはこの老朽化した校舎には不釣合いなパネルヒーターがその役目を終える。
生徒が残っていようがいまいが、時間になると有無を言わさず静まるその様は、職務(とけい)に忠実な公務員を連想させる。

 丁度、7時を回った頃だろうか。
窓から月明かりが差し込んでいる。
雲ひとつ無く、ただ満月のみが佇んでいた。
非の打ち所の無い完璧な月夜だったが、それゆえに何故だか恐ろしいと感じた。
すべてが静止したような、言うならばすべてに死が与えられたような、夜の校舎独特の空気に月がそのどこかもの悲しそうな瞳を向けるので、僕は狂気と恍惚との間で倒錯したかのように自らの内面を解放するのだった。
詰まるところ、僕はこの感覚が、夜の校舎が好きだった。
まるで世界の片隅に一人で取り残されたかのような、その空虚な孤独感が。
そのときだけは、世界は僕のものだった。

 月は移ろい、柱の向こうへとその身をうずめていく。
次第に輪郭が曖昧になり、机の上の僕の手も、よくある規格品の机も、壁に貼られた習字や絵も、窓際の花瓶も、黒板も、そして、教師と生徒を明確に区分する境界線たる教卓ですら、互いに溶け込んでいった。
「自」と「他」などと言うちっぽけな観念を振り切って、それは加速する。
どれもこれも自分であり、そして自分でない。
そして、世界は一つになった。

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