「短い人生は時間の浪費によっていっそう短くなる。
」(サミュエル・ジョンソン)
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私は正義である。
とりたてて趣味の無い私ではあるが、一つだけ大切にしている趣味がある。
それは、正義である。
高校を出て20年余、国家の僕として、と言えば聞こえはいいが、
しがない町役場で進みの遅い時計に苛立ちながら、日々の糧を得ている。
晴れた日はまだいいが、雨などが降った日には、ただでさえノロノロと平和ボケした時計が、
カタツムリになったかのような錯覚に陥る。
雨音のリズムと針音のリズムのギャップが、そう感じさせるのだろうか。
いや、違う。
雨の日は、時計がカタツムリになるに過ぎない。
私はそうして、静かに時が過ぎるのを待つ。
6月。
春と共にやってきた新入り達がそろそろ職場に慣れてくる頃だ。
と同時に、私の活躍の場でもある。
「君、その髪の色は明る過ぎないか」
「君、目上の者に向かって、その言葉遣いは何だ」
「君、ネクタイが曲がっているぞ」
悪に立ち向かうのが正義だという人がいる。
残念ながら、それは間違いだ。
悪を懲らしめるのが正義であり、悪は正義より弱いもので無ければならない。
正義とは、優越感を感じるための道具に過ぎないのだから。
上司に歯向かう奴はバカだ。
先日、路地裏で不良に囲まれていた少年を助けた。
私はきっちり定時で帰るから、放課後の彼らの遊びにうっかり出くわしてしまったのだ。
あの路地裏を抜けると早く帰れるんだが、もう使わないことにしようか。
とにかく、少年が怯えた目でこちらに助けを求めていたし、
何より不良たちがそんなに強そうに見えなかったので、足を踏み出した。
案の定、何だか良く分からない言葉を叫びながら、不良たちがこちらに近寄ってくる。
リーダーはこいつか。
こういうのは、問答無用でとっとと頭を潰すに限る。
威勢は良いが、自分から手を出す気は無いのだから。
頭を潰すと彼らは四散した。
自分の力だけを圧倒的に見せ付けて戦意を失わせるのは、戦術の常套手段である。
こういうこともあろうかと、日頃から鍛えておいてよかった。
正義も楽じゃない。
その後、少年から礼を言われ、少年の両親がわざわざ家に菓子折りを持ってきた。
こいつらは何もわかっていない。
私は、少年を助けたわけではないのだ。
ただ単に、そのような弱い存在である少年を見捨てるような自分は正義ではないと思っただけで、
また、大人より弱い子どもを組み伏せて優越感を得られると思っただけだ。
所詮は、既にある上下関係の再認識に過ぎない。ただのエゴだ。
私と不良とで、何が違うのだろうか。
どちらも、それぞれの正義を振りかざしているに過ぎない。
こいつらは、何もわかっていない。
休日。
たまには本でも読もうと、近くの本屋へ足を運んだ。
本を読むのもまた、正義的な行為である。
この書店は、この町には不似合いなくらい、割に大きな書店である。
町内はもちろん、町外からも客が来る。
無数に並ぶ書棚の間にはベンチが設けられ、座ってじっくり試読ができる。
それくらいサービスが行き届いた空間であるから、当然に浮浪者がたむろすることとなる。
ベンチに座って本を読んでいるものはまだいいが、中にはベンチに横になり、
さらにはどこからか拾ってきた新聞紙に包まる者まで現れだした。
ベンチの撤去も時間の問題である。
そして案の定、小説のブロックにあるベンチは、そのような方々の巣と化していた。
(やはり、帰るか・・・)
注意するのが正義であるが、一人で全員を相手にするのは手間である。
彼らは、不良とは訳が違う。
そう思い、ベンチの上のカタツムリたちから視線を切ろうとしたところ、
書棚の影から女子高生と思しき者がつかつかとベンチに踏み寄るのが見えた。
その女子高生が声を張り上げる。
「おい、ジジイ!ここはね、本を読むとこなんだよ!邪魔だから出て行け!」
ここは本を買うところなのだが。いや、高校生にとってはやはり、読むところなのか。
とにかく、私は「大人として」注意せざるを得ない。そう、正義のために。
「おい、君。言っていることは正しいが、言い方が悪いぞ。」
女が振り向きざまに言う。
「違う!言い方は悪いけど、言ってることは正しいんだ!」
どうやら、私は見誤ったらしい。
聞く耳を持たない者を、議論で打ち負かすことはできない。
残念ながら、彼女が正義で、私が悪なのである。
とりたてて趣味の無い私ではあるが、一つだけ大切にしている趣味がある。
それは、正義である。
高校を出て20年余、国家の僕として、と言えば聞こえはいいが、
しがない町役場で進みの遅い時計に苛立ちながら、日々の糧を得ている。
晴れた日はまだいいが、雨などが降った日には、ただでさえノロノロと平和ボケした時計が、
カタツムリになったかのような錯覚に陥る。
雨音のリズムと針音のリズムのギャップが、そう感じさせるのだろうか。
いや、違う。
雨の日は、時計がカタツムリになるに過ぎない。
私はそうして、静かに時が過ぎるのを待つ。
6月。
春と共にやってきた新入り達がそろそろ職場に慣れてくる頃だ。
と同時に、私の活躍の場でもある。
「君、その髪の色は明る過ぎないか」
「君、目上の者に向かって、その言葉遣いは何だ」
「君、ネクタイが曲がっているぞ」
悪に立ち向かうのが正義だという人がいる。
残念ながら、それは間違いだ。
悪を懲らしめるのが正義であり、悪は正義より弱いもので無ければならない。
正義とは、優越感を感じるための道具に過ぎないのだから。
上司に歯向かう奴はバカだ。
先日、路地裏で不良に囲まれていた少年を助けた。
私はきっちり定時で帰るから、放課後の彼らの遊びにうっかり出くわしてしまったのだ。
あの路地裏を抜けると早く帰れるんだが、もう使わないことにしようか。
とにかく、少年が怯えた目でこちらに助けを求めていたし、
何より不良たちがそんなに強そうに見えなかったので、足を踏み出した。
案の定、何だか良く分からない言葉を叫びながら、不良たちがこちらに近寄ってくる。
リーダーはこいつか。
こういうのは、問答無用でとっとと頭を潰すに限る。
威勢は良いが、自分から手を出す気は無いのだから。
頭を潰すと彼らは四散した。
自分の力だけを圧倒的に見せ付けて戦意を失わせるのは、戦術の常套手段である。
こういうこともあろうかと、日頃から鍛えておいてよかった。
正義も楽じゃない。
その後、少年から礼を言われ、少年の両親がわざわざ家に菓子折りを持ってきた。
こいつらは何もわかっていない。
私は、少年を助けたわけではないのだ。
ただ単に、そのような弱い存在である少年を見捨てるような自分は正義ではないと思っただけで、
また、大人より弱い子どもを組み伏せて優越感を得られると思っただけだ。
所詮は、既にある上下関係の再認識に過ぎない。ただのエゴだ。
私と不良とで、何が違うのだろうか。
どちらも、それぞれの正義を振りかざしているに過ぎない。
こいつらは、何もわかっていない。
休日。
たまには本でも読もうと、近くの本屋へ足を運んだ。
本を読むのもまた、正義的な行為である。
この書店は、この町には不似合いなくらい、割に大きな書店である。
町内はもちろん、町外からも客が来る。
無数に並ぶ書棚の間にはベンチが設けられ、座ってじっくり試読ができる。
それくらいサービスが行き届いた空間であるから、当然に浮浪者がたむろすることとなる。
ベンチに座って本を読んでいるものはまだいいが、中にはベンチに横になり、
さらにはどこからか拾ってきた新聞紙に包まる者まで現れだした。
ベンチの撤去も時間の問題である。
そして案の定、小説のブロックにあるベンチは、そのような方々の巣と化していた。
(やはり、帰るか・・・)
注意するのが正義であるが、一人で全員を相手にするのは手間である。
彼らは、不良とは訳が違う。
そう思い、ベンチの上のカタツムリたちから視線を切ろうとしたところ、
書棚の影から女子高生と思しき者がつかつかとベンチに踏み寄るのが見えた。
その女子高生が声を張り上げる。
「おい、ジジイ!ここはね、本を読むとこなんだよ!邪魔だから出て行け!」
ここは本を買うところなのだが。いや、高校生にとってはやはり、読むところなのか。
とにかく、私は「大人として」注意せざるを得ない。そう、正義のために。
「おい、君。言っていることは正しいが、言い方が悪いぞ。」
女が振り向きざまに言う。
「違う!言い方は悪いけど、言ってることは正しいんだ!」
どうやら、私は見誤ったらしい。
聞く耳を持たない者を、議論で打ち負かすことはできない。
残念ながら、彼女が正義で、私が悪なのである。
不都合な糸電話。
どんなに声を張り上げても、耳をつけなきゃ聞こえない。
どんなに強く叫んでも、決してそれは届かなくて。
弾んだ相手の声だけが、一方的に。
危ないと、間違ってると、引き返せと叫んでも。
ずぶずぶと、彼らは嵌っていく。
俺はそれを遠くから見ていて。
あぁ、なんて人間は、、、
そう呟きながら、俺も一人、嵌っていく。
頼むからみんな、俺のことを見ないでくれ。
どんなに声を張り上げても、耳をつけなきゃ聞こえない。
どんなに強く叫んでも、決してそれは届かなくて。
弾んだ相手の声だけが、一方的に。
危ないと、間違ってると、引き返せと叫んでも。
ずぶずぶと、彼らは嵌っていく。
俺はそれを遠くから見ていて。
あぁ、なんて人間は、、、
そう呟きながら、俺も一人、嵌っていく。
頼むからみんな、俺のことを見ないでくれ。
何度も自分にケリをつけ、整理して、納得したはずだった。
幾重にも理論武装をして、これがお互いのためだと、自分のことしか考えられない自分を誤魔化した。
それでもいざ廊下ですれ違いそうになると、俺はポケットから携帯を取り出して、必死で気づかない振りをする。
相手の姿にも、自分の気持ちにも、必死で気づかない振りをする。
「おはよう」の笑顔が恐ろしくて、俺は必死で気づかない振りをする。
その隣にいる現実を見ないよう、俺は必死で気づかない振りをする。
湧き上がる感情に蓋をするように、俺は必死で、気づかない振りをする。
夜な夜な酒を飲み、明けない空に苛立ち、何より不甲斐ない自分に苛立ち、衝動的に、しかしその瞬間には理性的に、グラスを叩き割る。
叩き割ったところで何も変わらないのは重々承知の上で、それでも何か楽になるかも知れないとグラスを叩き割る。
待っているのは現実。
後始末という義務。
すべてわかった上で。
光があるから影があるように、幸せがあるから不幸があるのだろうかと考えながら、それでも幸せを求めてしまう自分を笑い、傷ついた指先を舐める。
今日も夜は、長い。
幾重にも理論武装をして、これがお互いのためだと、自分のことしか考えられない自分を誤魔化した。
それでもいざ廊下ですれ違いそうになると、俺はポケットから携帯を取り出して、必死で気づかない振りをする。
相手の姿にも、自分の気持ちにも、必死で気づかない振りをする。
「おはよう」の笑顔が恐ろしくて、俺は必死で気づかない振りをする。
その隣にいる現実を見ないよう、俺は必死で気づかない振りをする。
湧き上がる感情に蓋をするように、俺は必死で、気づかない振りをする。
夜な夜な酒を飲み、明けない空に苛立ち、何より不甲斐ない自分に苛立ち、衝動的に、しかしその瞬間には理性的に、グラスを叩き割る。
叩き割ったところで何も変わらないのは重々承知の上で、それでも何か楽になるかも知れないとグラスを叩き割る。
待っているのは現実。
後始末という義務。
すべてわかった上で。
光があるから影があるように、幸せがあるから不幸があるのだろうかと考えながら、それでも幸せを求めてしまう自分を笑い、傷ついた指先を舐める。
今日も夜は、長い。
真夜中。
荒げた呼吸。
布と肉の擦れる音。
絡んだ触感。
堕落と快感。
そして、不快感。
荒げた呼吸。
布と肉の擦れる音。
絡んだ触感。
堕落と快感。
そして、不快感。
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