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「短い人生は時間の浪費によっていっそう短くなる。 」(サミュエル・ジョンソン)
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―――なぁ、一生に一度のお願いだ、頼むよ。この通り!


長かった窮屈な闇夜は徐々に追いやられ、すべてが無限に続く大空へと背伸びをし始める6月。
小林はその長身をまるで携帯のように折り曲げ、幾度目かの一生に一度のお願いをしている。

のどかな昼休み。
屋上には、僕と小林以外の影はない。
そのたった2つの影さえかき消そうと、無常にも陽はチリチリと皮膚を焼いている。

「、、、暑いな、今日は。」

わざとらしく、Yシャツの襟元をパタパタとやる。

「はい!ただ今!」

小林はすぐさま身を翻し、脱兎の如く駆け抜ける。
会談を5段飛ばしで駆け下り、あっという間に見えなくなってしまった。
一人徒競争の折り返し地点は、3Fにある自販機だ。

僕は小林から相談を受けていた。
コイツから相談を受けること自体は別段珍しいことではなかったが、その内容が大変に珍しいものだった。

ダダダダダダッ!

「はぁ、はぁ、、はぁ、、、『十六夜茶』、買ってきました!」

一人徒競争をぶっちぎりで優勝した小林が、その戦利品を俺に差し出している。

「なぁ、お願いだ!俺一人じゃ無理なんだよ~。」

「、、、小林、お前の気持ちはよくわかった。俺も親友として、お前にできる限り力を貸そう。」

「ホントか!?ありがとう!恩に着るよ!」

「でもな、、、」

「ん?お、おぅ。」

「俺さ、『へーいお茶』の方が好きなんだよね。」

ダダダダダッ!
一人徒競争が、また始まった。

ふと、フェンスの外に目をやる。
転落防止用に設置されたフェンスの網目越しに、二分された世界を眺める。
上には、近くて遠い青空。
下には、閑静な住宅街。
歩行者も、車通りすらも存在しない。
神の創りし世界と、人の造りし世界。
フェンスで切り取られたこの世界は、そのどちらにも染まらない。
染まることができない。
隔絶された音のない世界に、ただ一人取り残されていた。
ときおり柔らかな風が頬を撫で、この世界に僕以外の存在を気づかせてくれる。

ダダダダダッ!

―――そうだ、もう一人いたっけ。

「ほら、『へーいお茶』だ!」

肩をはずませる小林に対して、かける言葉はもう決まっていた。

「、、、小林、おなか空いた」

ダダダダダッ!

今回のゴールは、2Fにある購買だ。


まさか、アイツが恋をするとはな。
目を細め、風と戯れる。
別に、アイツをいじめたいわけでも、ましてやお茶にこだわりがあるわけでもない。
ただ、スイカは赤い部分がなくなるまで食べつくす主義、というだけだ。

ダダダダダダダダッ!

「ヤ、、、ヤキ、ソバ、、パンだ、、、」

息も絶え絶えの小林が戻ってきた。
さすがに少し、可哀想になる。

「小林、ありがとう。からかって悪かったな。」

「そ、そうか!手伝ってくれるか!」

「あぁ、もちろんだ。でもな、」

「え?」

「コロッケパンは無かったのか?」


――― 一瞬の静寂。


「、、、ふふふふふ。あはははははははははは。」

突然笑い出す小林。
とうとうネジが跳んでしまったのだろうか。
少々、からかい過ぎたかも知れない。

「おい、小林!どうした?悪い、ちょっとからかい過ぎたよ。すまん。」

「くくくく、、、いやいや、違うんだ。絶対お前ならそうくるだろうと思ってな。ほらッ!」

後ろ手にしていた左手を僕に差し出す。
一瞬遅れて、大きな買い物袋が顔を覗かせる。

「購買で売ってる物、全種類買ってきたぜッ!」


、、、そこまでするか、フツー。

―――あるいは、コイツは大物なのかもしれない。

僕はコロッケパンを頬ばりながら、コイツの相談を受けることにした。
ときおり吹く柔らかな風を、かみ締めるように確かめながら。
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